【共同研究成果情報 vol.2】
動くホログラムの新時代 ~太陽の光で3Dをそのまま記録!~
Natural-light full-color motion-picture holography
自然光フルカラー動画ホログラフィ
April 17 2025
Tatsuki Tahara(1), Tomoyoshi Shimobaba(2), Yuichi Kozawa(3), Mohamad Ammar Alsherfawi Aljazaerly(4), Tomoya Nakamura(4)
(1)National Institute of Information and Communications Technology (2)Chiba Univ. (3)Tohoku Univ. (4)SANKEN, The Univ. of Osaka
Advanced Photonics Nexus, Vol. 4, Issue 3, 036006 (April 2025).
Natural-light full-color motion-picture holography
ホログラムより観察される画像は、見る角度を変えると立体的に見え、奥行きがあり、実物がそこに“浮かんでいる”ように見えるという不思議な特徴を持ちます。ホログラム(立体像情報を含んだ媒体)をつくるための技術や方法がホログラフィです。ホログラフィは、普通のカメラのように光の明るさと色だけを記録する技術でなく、「その光がどの方向から来たか(=光の波の形)」まで記録できる「光の立体コピー技術」です。ただし、ホログラフィは、光の波同士が重なってできる「しま模様」を記録して立体を再現する技術なので光の波を綺麗に重ねなくてはいけません。今までのホログラフィの技術では、揺れに弱く、ほんの少しの振動でもホログラム作成に失敗していました。また、しま模様を作るのが極めて難しい自然光で、建物等の瞬間のフルカラーホログラムを取得するのは難しいと考えられていました。しかしなんと、情報通信研究機構の田原樹主任研究員、千葉大学大学院工学研究院の下馬場朋禄教授、東北大学多元物質科学研究所の小澤祐市教授、大阪大学情報イノベーション機構のMohamad Ammar Alsherfawi Aljazaerly特任研究員、大阪大学大学院基礎工学研究所の中村友哉准教授の共同研究チームは、「普通の机に置くだけで撮影できる技術」、しかも「シャッターを1回切るだけで太陽光照明下のフルカラー3Dが撮れる技術」を開発しました。
1.創造性と画期性(この研究は何がすごいのか)
🌸1-1.「レーザー必要」と言う常識を「太陽光でも撮影可能」に
- 従来のホログラフィでは、特殊な光源(レーザー)が必要で、屋外や自然光下での撮影は不可能でした。本研究は、「自然光」と呼ばれる太陽光や、LED照明を使って、対象物の3次元情報をフルカラーで記録することに成功しました。
🌸1-2.「写真」ではなく「動画(4D)」を記録
- 静止画だけでなく、動いている物体を「3次元の立体動画(3D空間+時間=4D)」として記録できます。これにより、まるでその場にいるかのようなリアリティのある再生が可能になります。
🌸1-3.「どこでも置ける」ポータブル化の実現
- ホログラム撮影の天敵は「振動」です。通常は数トンの除振台が必要ですが、本研究では振動に強い光学系を開発し、普通の可動式テーブルに乗るサイズの「ポータブル・ホログラフィックカメラ」を実現しました。
🌸1-4.1cmから10mまで、あらゆるものを3D撮影
- 小さな物体から、建物や人物のような大きなもの(10m級)まで、サイズを問わずワンショットで撮影できるシステムを構築しました。スキャンが不要なため一瞬の動きも逃しません。
2.新しい研究手法の開発(どうやって実現したか)
🌈2-1.自然光の“乱れ”を逆に利用する設計
- 自然光はレーザーと違ってバラバラに広がるため、ホログラフィには不向きとされてきました。研究チームは、光の自己干渉を利用する光学系、フルカラー偏光イメージセンサー、最新のノイズ除去アルゴリズムを組み合わせ、自然光でも安定してフルカラーホログラムを瞬時取得できる仕組みを作り上げました。レーザーを用いると自己干渉光学系でスペックルノイズが大きな問題になるのに対して、自然光では波の乱れによりスペックルが発生しなくなるため、乱れを逆に利用する形で高画質化を達成しました。
🌈2-2.シンプルな光学構成で“持ち運べるホログラフィカメラ”を実現
- 複雑なレーザー装置を使わず、水晶レンズ、水晶板、液晶素子、偏光フィルタ、フルカラー偏光イメージセンサーなどのシンプルな構成で、ポータブル化に成功しました。理論だけでなく実機を開発して実証した点も重要です。

【図】 研究チームが開発したホログラフィカメラを用いて行った物体の実験設定の一例です。これ以外にも、屋外、散乱した太陽光など様々な条件下でホログラフィカメラの機能を実証しました。
3.将来的な学術的インパクト(何に役立つか)
💡3-1.ホログラフィの大衆化・フィールドワーク化
- この研究の成果を社会展開すると、屋外フィールドワークや日常空間で誰でも3Dホログラムが撮れる時代になります。動くものを立体で連続撮影できるので、人間や動物の動作、植物の成長の記録が行えるようになります。
💡3-2.「記録」の概念を変える次世代アーカイブ
- 文化財のデジタル保存、手術の3D記録、セキュリティ、そして究極のVR/ARコンテンツ作成など、「現実世界をありのまま(立体・カラー・動き)保存する」技術として、映像・計測分野に革命を起こす可能性が大いにあります。
💡3-3.全ての物体にピントの合った計測機器を提供
- ホログラム取得時にピントが全く合ってない物体に対して計算機でピントを合わせられるため、高分解能な顕微鏡や、接写時、オートフォーカスでピントを合わせ辛い条件でも、全体にピントの合った結果を得られる様になります。先端4D顕微鏡、3D変位・変形・距離測定機器への展開が期待されます。
4.本研究が切り拓いた新境地 (まとめ)
この研究は、「ホログラフィ=特殊な実験室の技術」から「誰でも屋外で使える3D動画技術」へという社会の情報基盤を変えうる技術革新を実現したといえます。自然光で、動く3Dを撮れる、そのシンプルさと応用範囲の広さが、この研究の至高の価値です。レーザー不要=普及コストが劇的に下がるということで、ホログラフィが専門技術から一般技術へ移行することに期待が高まります。
研究者からのコメント
(情報通信研究機構 田原樹 主任研究員)
太陽光ホログラフィ研究は、JSTさきがけ研究より10年間掛けてここまで達成できる様になりました。私一人では困難だった結果を、共著者を始めとする、たくさんの方々の御力添えにより実現できました。私がひよっこ研究者の頃より御時間掛けて御面倒見て下さった数多くの研究者、支えて下さった皆様に心より御礼申し上げます。今後、情報科学、メタ光学素子含めた材料科学をより一層融合して計測性能を向上させ、顕微鏡、測距、天体等のパッシブ計測、自発光体計測に役立つ様に技術を磨き上げます。
(千葉大学大学院工学研究院 下馬場朋禄 教授)
田原先生のポータブルな自然光ホログラフィカメラは特殊な光源や除振装置を必要とせず、自然光下でフルカラーの3D動画を撮影でき、ホログラフィ技術を研究室から実世界へと連れ出す真に革新的な成果だと確信しております。初めてこの成果を見せていただいたときにたいへん驚いた記憶があります。田原先生の情熱と卓越した知見による成果であり、今後の更なるご研究の進展を心より応援しております。
(東北大学多元物質科学研究所 小澤祐市 教授)
今回、本共同研究拠点制度を通じて田原先生のご研究が大きく飛躍されたことを大変嬉しく思います。太陽光のような自然の光がホログラフィに使えるだけでなく動画記録まで実証できたことは素晴らしい成果だと思います。このような研究に携われたのも本事業があってこそだと改めて感じました。
(大阪大学情報イノベーション機構 Mohamad Ammar Alsherfawi Aljazaerly 特任研究員)
This portable natural-light holographic camera records full-color 4D scenes in a single shot by reconstructing RGB depth planes. As with traditional cameras, denoising is essential for suppressing both random noise and holography-specific artifacts. The 4D structure helps enforce consistency across depth and time. Developing better denoising strategies for this unique imaging modality remains an active area of research.
(大阪大学大学院基礎工学研究所 中村友哉 准教授)
本制度を通じて共同研究を支援頂き、大変感謝いたします。本成果がホログラフィックカメラ技術の実用化に向けた一助となれば幸いです。
【連絡先】
情報通信研究機構 主任研究員 田原樹 tahara@nict.go.jp
千葉大学大学院工学研究院 教授 下馬場朋禄 shimobaba@faculty.chiba-u.jp
東北大学多元物質科学研究所 教授 小澤祐市 y.kozawa@tohoku.ac.jp
大阪大学情報イノベーション機構 特任研究員(常勤) Mohamad Ammar Alsherfawi Aljazaerly ammar.alsherfawi.3h5@osaka-u.ac.jp
大阪大学大学院基礎工学研究所 准教授 中村友哉 t.nakamura.opt@osaka-u.ac.jp
リサーチハイライトもご覧ください。
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【共同研究成果情報 vol.1】
薬剤耐性菌との闘いに朗報 ~既存の抗生物質を「復活」させる治療戦略~
Amphiphilic Janus Nanoparticles Synergize with Antibiotics to Restore Susceptibility in Drug-Resistant Gram-Negative Bacteria
両親媒性ヤヌス型ナノ粒子による抗生物質との相乗効果を介した薬剤耐性グラム陰性菌の感受性回復
November 26, 2025
Zwama, Martijn(1); Bhattacharyya, Swagata(2); Sakurai, Nozomi(1); Nishino, Kunihiko(1); Yu, Yan(3)
(1) SANKEN, The University of Osaka, (2)Department of Chemistry, Indiana University,(3)Department of Chemistry, Department of Biomedical Engineering, Washington University in St. Louis
Nano Lett. 2025, 25, 49, 17244–17251 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.nanolett.5c05337?goto=supporting-info
薬剤耐性菌とは、抗菌薬(抗生物質)が効かなくなった細菌のことです。つまり、従来なら薬で治療できた感染症が、薬の効果を受けにくくなり、治療が難しくなる状態を指します。このまま対策を取らなければ、2050年には全世界で年間1,000万人が死亡すると予測されており、がんによる死亡者数を上回る可能性があります。この研究では、ローマ神話の『ヤヌス』のように2つの顔を持つ特殊なナノ粒子が、効かなくなった抗生物質の『最強の助っ人』となり、薬剤耐性菌を再び倒せるようにしました。
1.創造性と画期性(この研究は何がすごいのか)
🌸1-1.既存の抗生物質を「復活」させるブースター効果
- 新しい抗生物質を開発するのではなく、「耐性菌によって効かなくなってしまった既存の薬」を再び効くようにするというアプローチです。
- 単体では効果が薄いナノ粒子でも、抗生物質と組み合わせることで劇的な相乗効果を生み出し、多剤耐性菌を無力化することに成功しました。
🌸1-2.「二つの顔」を持つ粒子がバリアを突破
- 通常の均一なナノ粒子とは異なり、片側が「プラス電荷」、もう片側が「疎水性(油になじむ)」という異なる性質を併せ持つ「ヤヌス粒子」を使用しました。この特殊な構造が、細菌の強固な細胞膜バリアを効果的に揺さぶる鍵となりました。

図:細菌(灰色)は抗菌薬(緑色)に対して耐性を示すが、ヤヌスナノ粒子(オレンジ/灰色の球)を加えると抗菌薬が細菌(赤色)内に侵入し、それらを倒せるようになる。
2.新しい研究手法の開発(どうやって実現したか)
🌈2-1.ナノレベルでの「機能の分離配置」による攻撃力向上
- 従来の粒子(表面全体がプラス電荷など)では、細菌への攻撃力が不十分でした。本研究では、粒子表面の化学性質を半分ずつ分ける(ヤヌス化する)ことで、細菌膜への吸着と貫入を同時に行うという、天然の抗菌ペプチドのような高度な挙動を合成粒子で模倣しました。
🌈2-2.ゲルへの埋め込みによる安定評価システムの構築
- ナノ粒子を寒天ゲルの中に埋め込むという手法を開発しました。これにより、動き回る細菌(大腸菌など)に対しても、ナノ粒子が拡散せずに安定して留まり、抗生物質との併用効果を正確かつ再現性よく評価できるプラットフォームを確立しました。
3.将来的な学術的インパクト(何に役立つか)
💡3-1.薬剤耐性問題への「物理化学的」な解決策
- 菌の進化(耐性獲得)とのイタチごっこになりがちな「化学的な新薬開発」に対し、ナノ粒子の物理的な作用で細菌の防御壁を弱めるこの手法は、耐性が獲得されにくい次世代の治療戦略となる可能性があります。
💡3-2.ナノ医療材料の新しい設計指針
- 「混ぜればいい」ではなく、「粒子のどこの位置に何の機能を配置するか(異方性)」が薬効に決定的な差を生むことを示しました。これは、ドラッグデリバリーシステム(DDS)や抗菌材料の設計において、粒子の「形状と配置」の重要性を再定義する成果です。
4.本研究が切り拓いた新境地 (まとめ)
この研究は、「両親媒性ヤヌス型ナノ粒子による抗菌薬感受性回復」という新しいパラダイムを提示した初の報告です。抗菌薬耐性対策という世界的課題に対し、既存薬の効果を再び引き出す新しい戦略になります。
研究者からのコメント
(日本側研究者)
「本研究は、共同研究拠点事業によるご支援のもと進めてきた国際共同研究が成果として結実したものであり、関係者の皆様に深く感謝しております。材料化学と微生物学の融合により、単一分野では到達できなかった新しい発想を提示できたことは、本事業の大きな成果であると考えています。」
(米国側研究者)
「多剤耐性菌感染症は世界的に増加しており、医療現場における深刻な課題となっています。本研究で示した両親媒性ヤヌス型ナノ粒子は、既存の抗生物質の効果を回復させる新たな戦略であり、耐性獲得が起こりにくい点でも社会的インパクトの大きい技術です。本成果が、将来的な耐性菌対策の一助となることを期待しています。」
【連絡先】
大阪大学産業科学研究所 教授 西野邦彦 nishino@sanken.osaka-u.ac.jp
大阪大学産業科学研究所 特任准教授 ZWAMA MARTIJN m.zwama@sanken.osaka-u.ac.jp
詳しい研究内容は、大阪大学産業科学研究所WEBサイト2つの”顔”を持つヤヌスナノ粒子で薬剤耐性菌に対する抗菌薬の効力回復に成功|大阪大学 産業科学研究所をご覧ください。