未来を拓く若手研究者インタビュー(第2期)vol.01

未来を拓く若手研究者インタビュー
このページでは、「拠点卓越学生研究員」の中から特に成果をあげていただいた研究員を推薦により選出し、若手研究者を広く多くの方へご紹介するためのシリーズとして掲載していきます。

インタビュー Vol.01
優れたデバイスは、優れた材料から

取材:2017年7月28日

次世代型ライフスタイルの創成を担う機能性材料の研究に熱意を燃やす

”優れたデバイスは、優れた材料から”という言葉は、私が現在所属する佐藤義倫研究室でこれまで学び、また大切にしてきた考え方です。近年、日進月歩で進化する電子デバイスやエネルギーデバイスの性能をさらに向上させる機能性材料の設計・開発が求められています。加えて、こうした材料を環境にやさしく、安定的に製造するための研究も進んでいます。

近年注目されているカーボンナノチューブという炭素材料は、その軽さと強度の点において、省エネルギー・低炭素社会を実現する次世代材料として航空機などの構造材料への応用が期待されています。また、銅よりもすぐれたその導電性により、燃料電池に必要な白金の代わりになり得る素材としても注目されています。私は、このカーボンナノチューブの電気的な特性に着目し、その骨格に窒素原子を組み込むことにより、優れた導電性や触媒特性を併せ持つ材料を安定的に合成する手法の研究をしています。

カーボンナノチューブへの窒素原子の組み込みは新たな機能性の発現に有効な技術ですが、以前は環境にやさしく、安定的な合成方法が確立していませんでした。アンモニアに含まれる窒素原子をカーボンナノチューブに組み込む手法がありますが、これまでは1000 ℃を超える非常に高い温度が必須でした。私が取り組んでいるのは、フッ素化・脱フッ素化という化学的プロセスを経由する新規手法の開発で、400 ℃程度の温度でも、より安定的かつ高濃度に窒素原子を組み込むことができています。私は現在、この窒素原子を組み込んだカーボンナノチューブの燃料電池触媒特性について主に研究しています。カーボンナノチューブは炭素原子の配列が整ったきれいな構造を持っているので、まずはこれをモデル材料として燃料電池触媒特性の発現における窒素原子の役割を解明し、得られた知見を元により実用性の高い炭素系触媒材料の開発につなげるのが目標です。将来的には、炭素や窒素のみからなるメタルフリー材料が白金系触媒に代わる新たな燃料電池触媒として使える日が来るかもしれません。

軽量・フレキシブルな炭素材料でイノベーションを起こしたい

その他にも、窒素原子を組み込んだカーボンナノチューブは興味深い半導体特性を示します。通常はp型の半導体ですが、窒素原子を組み込むことでn型の性質の異なる半導体に姿を変えます。しかし、窒素原子を入れたからといって、必ずn型半導体になるわけではないという不確実さが課題でした。私たちは窒素原子の骨格への入り方をしっかりと評価し、制御することで、より確実な特性を示す材料の合成に成功しています。この2種類の半導体を組み合わせ、より軽量で薄く、フレキシブルな太陽光発電パネルや熱電変換素子が実現できないかと考えています。これが実現すれば、例えば屋根だけでなく服やバッグに貼って発現できる太陽光発電パネルが実現できるかもしれません。また熱電変換素子は温度差による発電が可能なので、工場の配管や、ビル・家の壁や窓などに貼ることで、これまで利用できなかった工場排熱や身近な温度差を使って電力を生むことも可能になるのです。私が目指しているのは、機能性材料の開発を通して、人々が真に心豊かに暮らせる次世代型ライフスタイルの創成に貢献することです。

環境への想いは東日本大震災を通じて、より強いものに

東北大学工学部に入学した時点で、大学院環境科学研究科に進み、自然エネルギー変換材料について研究をしている研究室に進みたいという明確な目標を持っていました。地球温暖化や化石資源の枯渇危機などのエネルギーに関連する問題解決に貢献したいと考えていましたが、さらにその想いが強くなったきっかけは2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。私たちの生活がいかにエネルギーに頼っているかを痛感し、研究を進める原動力になりました。環境問題という地球規模の視点と震災復興という地域に根差した視点を併せ持つことが使命であると感じています。

研究を支える仲間に出会うことで、さらに進化していく

多くの研究者の方々とコミュニケーションをとることの大切さを最近特に痛感しています。研究は1人では決して成し得ません。私の研究も多くの方々との共同研究により進めています。例えば北海道大学電子科学研究所の太田裕道教授は、さまざまな材料のp型・n型半導体特性を精密に見分ける研究をされており、私の研究に不可欠なデータをご提供いただいています。デバイスと材料の進化は止まることがないので、さらに多くの分野の方々と積極的にコミュニケーションをとることで、新しい挑戦への糸口が見えてくるかもしれません。
物質・デバイス領域共同研究拠点は、私のような学生が行う挑戦的な研究活動も支援してくださるので、心から感謝しています。拠点の存在は、日本全国の幅広い分野の研究者と出会えるきっかけになっています。


横山 幸司
東北大学大学院環境科学研究科
環境創成計画学講座 環境複合材料創生科学分野
佐藤義倫研究室
http://ncsimd.kankyo.tohoku.ac.jp/
H28年度次世代若手共同研究受入|北海道大学電子科学研究所 太田 裕道 教授


拠点卓越学生研究員について
 物質・デバイス領域共同研究拠点では次世代を担う若手研究者による共同研究を積極的に支援しています。
次世代若手共同研究に応募された研究の中から、素晴らしい基礎的知見に基づく優れた提案として採択された研究者を「拠点卓越学生研究員」として認定し、研究により専念できるよう支援を行っています。

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