共同研究成果情報 vol.1
Amphiphilic Janus Nanoparticles Synergize with Antibiotics to Restore Susceptibility in Drug-Resistant Gram-Negative Bacteria
両親媒性ヤヌス型ナノ粒子による抗生物質との相乗効果を介した薬剤耐性グラム陰性菌の感受性回復
November 26, 2025
Zwama, Martijn(1); Bhattacharyya, Swagata(2); Sakurai, Nozomi(1); Nishino, Kunihiko(1); Yu, Yan(3)
(1) SANKEN, The University of Osaka, (2)Department of Chemistry, Indiana University,(3)Department of Chemistry, Department of Biomedical Engineering, Washington University in St. Louis
Nano Lett. 2025, 25, 49, 17244–17251 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.nanolett.5c05337?goto=supporting-info
薬剤耐性菌とは、抗菌薬(抗生物質)が効かなくなった細菌のことです。つまり、従来なら薬で治療できた感染症が、薬の効果を受けにくくなり、治療が難しくなる状態を指します。このまま対策を取らなければ、2050年には全世界で年間1,000万人が死亡すると予測されており、がんによる死亡者数を上回る可能性があります。この研究では、ローマ神話の『ヤヌス』のように2つの顔を持つ特殊なナノ粒子が、効かなくなった抗生物質の『最強の助っ人』となり、薬剤耐性菌を再び倒せるようにしました。
1.創造性と画期性(この研究は何がすごいのか)
🌸1-1.既存の抗生物質を「復活」させるブースター効果
- 新しい抗生物質を開発するのではなく、「耐性菌によって効かなくなってしまった既存の薬」を再び効くようにするというアプローチです。
- 単体では効果が薄いナノ粒子でも、抗生物質と組み合わせることで劇的な相乗効果を生み出し、多剤耐性菌を無力化することに成功しました。
🌸1-2.「二つの顔」を持つ粒子がバリアを突破
- 通常の均一なナノ粒子とは異なり、片側が「プラス電荷」、もう片側が「疎水性(油になじむ)」という異なる性質を併せ持つ「ヤヌス粒子」を使用しました。この特殊な構造が、細菌の強固な細胞膜バリアを効果的に揺さぶる鍵となりました。

図:細菌(灰色)は抗菌薬(緑色)に対して耐性を示すが、ヤヌスナノ粒子(オレンジ/灰色の球)を加えると抗菌薬が細菌(赤色)内に侵入し、それらを倒せるようになる。
2.新しい研究手法の開発(どうやって実現したか)
🌈2-1.ナノレベルでの「機能の分離配置」による攻撃力向上
- 従来の粒子(表面全体がプラス電荷など)では、細菌への攻撃力が不十分でした。本研究では、粒子表面の化学性質を半分ずつ分ける(ヤヌス化する)ことで、細菌膜への吸着と貫入を同時に行うという、天然の抗菌ペプチドのような高度な挙動を合成粒子で模倣しました。
🌈2-2.ゲルへの埋め込みによる安定評価システムの構築
- ナノ粒子を寒天ゲルの中に埋め込むという手法を開発しました。これにより、動き回る細菌(大腸菌など)に対しても、ナノ粒子が拡散せずに安定して留まり、抗生物質との併用効果を正確かつ再現性よく評価できるプラットフォームを確立しました。
3.将来的な学術的インパクト(何に役立つか)
💡3-1.薬剤耐性問題への「物理化学的」な解決策
- 菌の進化(耐性獲得)とのイタチごっこになりがちな「化学的な新薬開発」に対し、ナノ粒子の物理的な作用で細菌の防御壁を弱めるこの手法は、耐性が獲得されにくい次世代の治療戦略となる可能性があります。
💡3-2.ナノ医療材料の新しい設計指針
- 「混ぜればいい」ではなく、「粒子のどこの位置に何の機能を配置するか(異方性)」が薬効に決定的な差を生むことを示しました。これは、ドラッグデリバリーシステム(DDS)や抗菌材料の設計において、粒子の「形状と配置」の重要性を再定義する成果です。
4.本研究が切り拓いた新境地 (まとめ)
この研究は、「両親媒性ヤヌス型ナノ粒子による抗菌薬感受性回復」という新しいパラダイムを提示した初の報告です。抗菌薬耐性対策という世界的課題に対し、既存薬の効果を再び引き出す新しい戦略になります。
研究者からのコメント
(日本側研究者)
「本研究は、共同研究拠点事業によるご支援のもと進めてきた国際共同研究が成果として結実したものであり、関係者の皆様に深く感謝しております。材料化学と微生物学の融合により、単一分野では到達できなかった新しい発想を提示できたことは、本事業の大きな成果であると考えています。」
(米国側研究者)
「多剤耐性菌感染症は世界的に増加しており、医療現場における深刻な課題となっています。本研究で示した両親媒性ヤヌス型ナノ粒子は、既存の抗生物質の効果を回復させる新たな戦略であり、耐性獲得が起こりにくい点でも社会的インパクトの大きい技術です。本成果が、将来的な耐性菌対策の一助となることを期待しています。」
【連絡先】大阪大学産業科学研究所 教授 西野邦彦 nishino@sanken.osaka-u.ac.jp
詳しい研究内容は、大阪大学WEBサイトプレスリリースをご覧ください。